-生産者と消費者をつなげたい-
中国四国酪農大学校 第一牧場長 関哲生先生インタビュー

関先生

■関 哲生(せき・てつお)
公益財団法人中国四国酪農大学校 教務課長 兼 第一牧場長。
大学卒業後、岡山県庁に入庁。獣医師として岡山県内の畜産現場を支えてきた。
2009年より中国四国酪農大学校にて後進の育成に取り組んでいる。

蒜山高原(岡山県)にある、中国四国酪農大学校。次世代の酪農家育成を目的として設立され、50年以上の歴史を持つ学校だ。今回、お話を伺ったのは、牧場長として教鞭をとる関哲生先生。獣医師の資格を持ち、県職員としてのキャリアがありながら、酪農後継者育成の現状に強い危機感を抱き、学校を運営する財団職員に転じた熱い先生である。

県庁職員から酪農大学校の先生へ

中国四国酪農大学校

「大学卒業後、獣医師として岡山県の職員になりました。畜産課の一員として農業振興に取り組み、県内の畜産現場を回るなかで、様々な問題点も見えていましたが、何をやっても成果が出ない。本当にこれでいいのか?自分はきちんと仕事ができているのか?と自問自答する毎日でした」
そう話す関先生。県庁職員だった彼が教職の道を選んだのは、意外にも学生たちとのふれあいだったと言う。
「私は10年前に、この学校に出向してきました。当校は毎年30人近い学生が入学してきますが、みな厳しい世界だと知りつつ、それでも酪農がやりたいと思って飛び込んできます。出身は関東から沖縄までバラバラ。まるで接点のなかった若者たちが、2年間の寮生活を送っています」
「朝は5時に起床し、搾乳や牛の管理。実習の間には、酪農経営や飼料、繁殖等に関する講義も受けます。ひと段落するのは、夕方5時から始まる2回目の搾乳がすべて完了してから。それでも生き物相手の仕事なので、出産や何かトラブルがあれば夜中でも対応しなければなりません。夏休みも交代で2週間だけ。厳しい毎日ですが、脱落する学生はほとんどいません。このことは教師として誇らしく思いますよ。おかげで今はたくさんの卒業生があちこちの農場で活躍しています。岡山県内に限ってみれば、現在は約4割の牧場の経営者は当校の卒業生です。従業員を含めればその数はもっと多い。共進会での交流も盛んですし、様々な活動の拠点として、この学校の重要性は年々高くなっています。だからこそ、私自身は世代をつなぐ役割も担っていると考えています」

中国四国酪農大学校

蒜山高原といえば、岡山の避暑地のひとつであり、ジャージー牛が穏やかに草をはむ風景が連想されるが、酪農経営は常にプレッシャーと隣り合わせだという。
「現場に出れば、様々な場面に直面します。そこでは経験の有無が成否を左右することも少なくない。例えば、乳房炎が出たらどうすればいいのか?学生たちは、その時々で様々なことを考え対処法を見つけるわけです。新しいアイデアが浮かぶのもそういったときですよね。どんなプレッシャーでも、きちんと向き合えば今後のエネルギーに変えられる。そう思っていますし、だからこそ学生たちにはたくさんの経験を積んでほしいと考えています」

もっと生産者と消費者をつなげたい

中国四国酪農大学校
印象的だったのが、取材の帰りがけに話してくれたこんなエピソードだ。

「消費者は、牛乳が工場でつくられているのは知っている。でも、その前は?皆さんのイメージは、工場で完結していることが多いんです。工場より川上にある酪農現場のことを知ってもらうことができれば、酪農全体がもっと盛り上がるはず。それは後継者育成にも必要なことです。地道なことだけど、自分たちがやっていることをしっかりアピールする。農協などの第三者に任せて終わり、では無責任ですよね。例えば自分たちがつくったものを、消費者のところに持っていいって評価や意見を直接聞いてみる。そういうことをしていかないと、業界も発展しません。もっと外に出て、しっかりと胸を張ってPRできる産業にしないといけない。その点、オハヨー乳業さんは毎年地元のスーパーとタイアップして消費者の皆さんを蒜山に連れてきてくれるので、とてもありがたいです。学生にとっても、消費者と直接触れ合う機会は多くない。これからも一緒に色んなことに取り組んでいければ、と思います」

中国四国酪農大学校の生徒の皆さん

中国四国酪農大学校について

名称:公益財団法人中国四国酪農大学校
所在地:岡山県真庭市蒜山西茅部632
TEL:0867-66-3651
ホームページ:http://www.rakudai.ac.jp
 (取材/文:野崎雅徳)

※掲載内容(所属団体や役職名等)は取材時のものとなります。