プロバイオティクスの摂取によってもたらされる生理的効果はさまざまです。
乳酸菌やビフィズス菌がつくる乳酸や酢酸、ある種の抗菌性物質は、腸内の腐敗菌や病原菌の増殖を抑えることがわかっています。従ってこれらのプロバイオティクスが生きたまま腸までとどき定着すれば腸内での有害物質の軽減や食中毒の予防有効だと思われます。
また一部の乳酸菌では血中コレステロールの低減作用について研究が進められています。
その作用として乳酸菌による胆汁酸の脱抱合や菌体表層へのコレステロールの結合が考えられており、コレステロールの代謝・体外排出の亢進が血中コレステロールの低減の要因ではないかと推測されています。
この他にアレルギーや自己免疫疾患の改善、ガン・感染症に対する抵抗力を高める働きなどが明らかになっています。
ガンは死亡原因の第一位にあり、高齢化にともない患者数は年々増加しています。今や日本人の死亡原因は四人に一人がガンなのです。
ガンの発病原因ではタバコの害が大きいのはご存じの通りですが、アメリカの国立ガン学会の調査で、食物のほうが発ガンに最も関連性があることが示されています。
つまり日常の食生活に発ガンの原因があるということです。なかでも注目されるのが脂肪、たんぱく質、塩分、アルコールなどの過剰摂取やかたよった摂取で、発ガンと密接な関係を有しています。つまり栄養のかたよった食事がガンを招くともいえるのです。
一方で食物の中には発ガンを抑える働きがあるものがあります。代表的なものが食物繊維、ビタミンA・C・D・Eそしてヨーグルトです。
ヨーグルトの乳酸菌にガンを抑制する効果があることを初めて報告したのはブルガリアのボグダノフという人で1962年のことでした。この実験に使われたのはブルガリア菌です。ブルガリア菌の細胞壁を構成しているグリコペプチドという物質にガンの増殖を抑制する効果があることがわかったのです。
その後、1973年にアメリカのネブラスカ大学のレディらは、エールリッヒ腹水ガン細胞を移植したマウスにヨーグルトを与えたら、ガンの細胞増殖の抑制率が28%であることを確認しました。これは「効果弱し」という結果ながらも、乳酸菌に制ガン効果のあることが次第に認められるようになりました。
日本では乳酸菌飲料に含まれている乳酸菌(ラクトバチルス・カゼイ菌)がザルコーマー180ガン細胞を移植したマウスのガンの増殖を最高で82.7%抑制したという報告があります。
これらはすべて動物実験によるもので人においてどうなのか気になるところです。
膀胱ガンは40歳以上の男性に多いガンで病変が表面にとどまる「上皮性膀胱ガン」と病変の根が深い「浸潤性膀胱ガン」があります。上皮性膀胱ガンは比較的治りやすいガンですが再発しやすいという特徴があります。
そこで上皮性膀胱ガンの患者(手術によってガン細胞は摘出ずみ)を対象に、このうち23人には1日3回、ラクトバチルス・カゼイ菌を飲んでもらい、残り25人には与えませんでした。そして500日にわたりガン再発の有無を観察したのです。
その結果、手術から1年後の再発率は飲んだ人が57%だったのに対し、飲まなかった人は83%でした。
飲んだ人の半数が再発するまでの平均日数が350日だったのに対して、飲まなかった人は平均190日でした。
なぜ乳酸菌にガンを抑制する効果があるのでしょう。
食品及びその成分には変異原性物質や発ガン物質に対してその作用を減弱させる性質をもつものが多く見いだされています。乳酸菌の仲間にはこの作用に際だって優れた株があることがわかってきました。
また乳酸菌の菌体には様々の変異原性物質や発ガン物質を結合させる働きがあり、死菌体もその能力をもっており、生菌とほとんどかわりません。

病原菌やウイルス、アレルゲン(アレルギーを引き起こす物質)そしてガン細胞などを『異物』として認識し、それらを排除しようとする機能を免疫といいます。乳酸菌が免疫に大きく貢献していることがわかり、私の研究室でも免疫力を高める乳酸菌の探索に取り組んでいます。
人の腸に有害な異物が入ってきたとわかると、T細胞とマクロファージ(貪食細胞と呼ばれ、異物を取り込んで消化しほかの免疫細胞に異物の特徴などを知らせる役割を担っています)の働きでB細胞が増殖しIgA抗体産生細胞に分化し「IgA抗体」を産生します。
IgA抗体とは病原菌やウイルスを攻撃したり病原菌がつくりだす毒素を無毒化する物質のことです。
つまりIgA抗体の産生が活発に行われれば体はかなりの安全度が約束されるというわけです。
ここで注目されるのが乳酸菌の働きです。
乳酸菌のある株にはIgA抗体の産生を活発にする作用があるのです。異物を取り込むマクロファージは乳酸菌もまた異物として取り込み、同時に取り込まれた病原体に対するIgA抗体の産生を促します。
このとき乳酸菌自身に対するIgA抗体はつくられないので乳酸菌を攻撃することはありません。乳酸菌を常に摂取していると、摂取していないときに比べて、病原菌を攻撃するIgA抗体の産生量がずっと多くなることがわかってきました。

「いちばんガンを抑制する効果がある乳酸菌はなんですか」という質問をよく受けます。
腸内フローラの改善という点では生きたビフィズス菌がいいといわれますが、死菌でもガンを抑制する効果はありますから正直なところ特定の菌をあげることはできません。
プロバイオティクスはガンの予防に何らかの役割を果たしていることが明らかになりつつありますが、ガンを撲滅するわけではありません。
ガン予防の最大のポイントは栄養のかたよらない、バランスのとれた食事を心がけることです。そのうえで乳酸菌を含むヨーグルトを食べるようにすればガンの予防にもなるというスタンスを心がけたいものです。